「学びシリーズ」は、DO!NUTS TOKYO公式アンバサダーの皆さんに向けて行われるレクチャーであり、若者アンバサダーとして活動を行っていただく上で参考になると思われる知識の習得や、ご自身の考えをより深めていただくことを目的としています。
第30回目は、2023年12月5日(火)に、Principles for Responsible Investment (PRI) Policy Specialistの大崎一磨氏を講師にお迎えし、「サステナブルな金融システムの今とこれから」をテーマに開催しました。
レクチャー後は振り返りとして、グループディスカッションを行い、活発な意見交換が行われました。
■レクチャーレポート
1.ポイント
- PRI(Principles for Responsible Investment)とは、持続可能な投資を促進する国際的な投資イニシアチブであり、ESG要素を投資決定に組み入れることを目指している。
- 人類の活動が地球の有限な資源に対して増加し、気候変動などの課題が重要になっている。
- 1.5度シナリオや2度シナリオに応じた社会経済への大きな影響があり、政策や経済活動の変化が必要。
- 経済モデルは環境と社会を考慮に入れた持続可能なものへの転換が求められている。
- 環境や社会への影響を考慮することが利益増加の重要な要素であり、サステナビリティと経済の調和が必要。
- ESG(環境、社会、企業統治)要素を投資に取り入れることが、投資家にとって重要であり、国際的な規制と期待要求も増加している。
- 日本では、ジェンダーダイバーシティとD&I(ダイバーシティ&インクルージョン)がESG投資の重要な課題となっている。
- D&Iは、組織風土、ビジネスモデル、社会の三つの側面で重要な課題である。
- 日本の投資家にとって、ジェンダーダイバーシティと気候変動が特に重要なテーマになってきているが、日本企業は人権とダイバーシティの関連性の理解が不十分で、国際的な規制に比べて遅れている。
- サステナブルファイナンスは市場形成に貢献しており、日本は国際的にリーダーとしての存在感を示しているが、さらなる認識の高まりが求められる。
- サステナビリティインパクト投資は、ESG要素を考慮し、自らの投資が社会環境に与える影響を管理することが重要である。
2.サマリー
地球に対する負荷が増加し、気候変動などの課題が深刻化しています。1.5度シナリオや2度シナリオに対応するため、社会や経済に大きな影響が出ており、これらの課題に対処するためには、経済モデルを持続可能な形に変革する必要があります。過去の経済モデルが環境や社会への影響を無視していたのに対し、現在はそれらを考慮することが重要視されてきています。持続可能な経済活動への転換は、環境と社会への影響を考慮しながら、利益を増加させることです。
この文脈で、ESG(環境、社会、企業統治)要素を投資に取り入れることが重要とされています。企業が「責任投資原則(PRI)」に署名することは、投資家にとっての責任を果たすとともに、リターンを最大化するために不可欠です。国際的な規制と期待要求も増加しており、ESG投資の重要性が高まっています。
特に日本においては、ジェンダーダイバーシティとダイバーシティ&インクルージョン(D&I)がESG投資の重要な課題となっています。これらの要素は、組織風土やビジネスモデル、社会全体に影響を及ぼします。D&Iにおけるパフォーマンスが低い企業は、事業ポートフォリオ全体に影響を与える可能性があります。多様性を反映する組織やインクルーシブなビジネスモデルの開発は、経済、社会、企業、投資家にとって不可欠な社会的財産として重要性を増しています。
特に、日本の投資家にとっては、「ジェンダーダイバーシティと気候変動」が注目されるテーマです。日本企業は、これらの課題に対する意識を高める必要があり、ジェンダーダイバーシティは将来的にも企業にとって重要なテーマとなるでしょう。しかし、日本の企業は人権とダイバーシティの関連性を十分に理解していないことが課題となっており、国際的な規制や基準に比べて遅れています。
また、サステナブルファイナンスに関して、日本は市場形成に貢献し、官民共同のコンソーシアムを立ち上げ、インパクト投資と共通認識を持つプラットフォームの構築に取り組んでいます。これまで日本はサステナブルファイナンスのリーダーとして国際的な存在感を示していますが、投資額は減少傾向にあり、認識の高まりと共により高いレベルの認識が求められています。市場の動向と規制が変わる中で、サステナブルファイナンスの進化が必要です。
サステナビリティインパクト投資は、ESG要素を考慮するだけでなく、投資が社会環境に与える影響を管理する義務として定義されています。この概念は「Investing for Sustainability Impact (IFSI)」と呼ばれ、ESG投資とは異なり、ポートフォリオの価値を損なわないような環境作りと政策変化が求められています。これにより、投資家は自らの投資が社会環境に与える影響をより深く理解し、それに応じた行動を取ることが求められています。
3.感想
「投資家」この単語だけ聞くと自分とは縁遠い世界の人々だと感じてしまわないでしょうか。今回の講義を受けて、「投資家」が資本市場における重要ファクターであり、投資家が何を基準に投資判断をするかが社会を大きく動かすということを改めて実感しました。特にPRIでは投資を社会的責任をもった行為にするべくESG等に沿った基準を設けており、その基準や価値観が広範な投資家に受け入れられていることを知りました。そしてその中でも、日本企業は特にD&Iやジェンダーの領域に課題があることを理解できました。気候変動のような地球規模課題に取り組む際にはより多様な視点からの意見があることで、イノベーションが起きやすくなります。
翻って、自分の勤めている(経営している)企業がどのような投資家から投資を受けており、その投資家がどのようなことを重視して投資をしているのか、企業にエンゲージしようとしているのかを知っている人はどの程度いるでしょうか。かく言う自分も恥ずかしながら、勤め先の企業の投資家の判断軸を知らなかったひとりです。ぜひ皆さんが自社の投資家のことを知り、対話を始めるきっかけにつながると良いと思いました。
4.同世代に伝えたい点
- 企業活動は投資家からの投資があることによって成立してる事実を改めて知る必要がある
- その投資家の投資判断軸に企業の財務状況だけでなく、非財務(ESG)の情報が加わり重要視されている
- 日本企業のジェンダーダイバーシティやD&Iの取り組みは特に遅れが指摘されている
- 自分が属している/経営している企業がどのような投資家から投資されており、その投資家が何を判断基準としているのか知ることが重要な時代になってくる

【講師】
大崎一磨/Principles for Responsible Investment (PRI) Policy Specialist
新卒でEY新日本有限責任監査法人に入所し、サステナビリティ専門のコンサルチームに所属。非財務情報開示、サステナビリティ戦略、責任投資といったテーマを中心に企業、金融機関、官公庁をクライアントに幅広くサステナビリティに係る業務を経験。2021年より現職。責任投資及びサステナブルファイナンスに係る政策をテーマに、PRI署名機関に対するサポート、並びに政策立案者に向けた提言の分析・執筆を担当。

【レポート執筆】
宮川健太郎/第3期若者アンバサダー
企業でのマーケティング経験やフリーランスとして外資系スニーカーブランドでの事業開発等のサステナビリティに関する事業を行う等様々な経歴を持つメンバー。現在はESG情報開示を支援する企業にて、カスタマーサクセス業務に従事。
【関連記事】学びシリーズ第1回「持続可能社会ってどんな社会?」
【関連記事】学びシリーズ第2回「ゼロエミッション東京戦略」
【関連記事】学びシリーズ第3回「気候変動と土地利用」
【関連記事】学びシリーズ第4回「有機農業が育む生物多様性と地域資源活用」
【関連記事】学びシリーズ第5回「生活者を巻き込む森づくり」
【関連記事】学びシリーズ第6回「家では何ができるか?そのリアリティ」
【関連記事】学びシリーズ第7回「あなたの1円が社会や未来を変える!?」
【関連記事】学びシリーズ第8回「SDGsを活かした地域づくり」
【関連記事】学びシリーズ第9回「みんな参加型の循環型社会」
【関連記事】学びシリーズ第10回「水産資源の現状とMSC認証制度について」
【関連記事】学びシリーズ第11回「地域でSDGs・ゼロカーボンを実践し、世界につながる」