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DO!NUTS TOKYO事務局
2021年9月16日 12:16

学びシリーズ第4回「有機農業が育む生物多様性と地域資源活用」楠本良延氏

2021年7月2日(金)に、「有機農業が育む生物多様性と地域資源活用」をテーマに第4回オンラインレクチャーを開催いたしました。
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若者アンバサダープログラムの学びシリーズ第4回目のレポートです。

「学びシリーズ」は、DO!NUTS TOKYO公式アンバサダーの皆さんに向けて行われるレクチャーであり、若者アンバサダーとして活動を行っていただく上で参考になると思われる知識の習得や、ご自身の考えをより深めていただくことを目的としています。

第4回目は、2021年7月2日(金)に、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 西日本農業研究センター 中山間営農研究領域 生産環境・育種グループ 上級研究員楠本良延氏を講師にお迎えし、「有機農業が育む生物多様性と地域資源活用」をテーマに開催しました。
レクチャー後は振り返りとして、グループディスカッションを行い、活発な意見交換が行われました。

学びシリーズ第4回「有機農業が育む生物多様性と地域資源活用」楠本良延氏

■レクチャーレポート

1.     ポイント

  • 気候変動対策と同じくらい生物多様性は重要である。
  • 農村では、生物多様性の4つの危機「①人間活動の拡大」「②人間活動の縮小」「③新たな導入問題」「④温暖化」が同時期に進行している。
  • 1890年代から、日本の草原面積は著しく減少しており、草原は最も植物の絶滅危惧種が多い。
  • 「みどりの食糧戦略」では、2050年までに、農林水産業のCO2ゼロエミッション化の実現などを目指している。
  • 農村の生物多様性・地域資源の可視化が重要。
  • 農業生産と生物多様性は両立しうる。特に有機農業では顕著な傾向がある。
  • 生物多様性保全が企業のビジネスチャンスにつながる。
  • 地域資源を活用した農村の活性化は可能。生物多様性を地域のブランディングに。


2.     サマリー

農村の生物多様性に注目が集まっています。2010年に愛知で開催されたCOP10の愛知ターゲットでは、2020年までの農(林水産)業が行われる地域が、生物多様性の保全を確保するように持続的に管理されることを定めました。しかし、残念ながらそれらはほぼ未達成に終わり、多くの課題が残されています。

では、なぜ農村の生態系の多様性は高いのでしょうか?それは、農村には様々な自然環境が形成されているからなのです。実は、これらの環境は人間によって維持管理されてきました。これを手付かずの自然(原生自然)と対比して、二次的自然と言います。

しかしそんな農村では今、生物多様性の4つの危機が同時に進行してしまっています。それは、都市・農地開発、過度の集約化などの「①人間活動の拡大」、里山の放置・耕作放棄などの「②人間活動の縮小」、化学資材の使用や外来生物の導入などの「③新たな導入問題」、最後は害虫等の分布変化などの「④温暖化」の影響です

この4つの危機を受け、顕著な事例としては、1890年代から日本の草原面積は著しく減少しています。実際、1880年代には国土の30%あった日本の草原面積は、今や1%にまで減っています。これは、草原に生息する生物を絶滅の危機に追いやっています。

農林水産省は2021年5月に「みどりの食料システム戦略」を策定しました。この戦略では、2050年までに農林水産業のC02ゼロエミッション化の実現や、耕地面積に占める有機農業の取り組み面積を25%、100万haに拡大することなどの目標を掲げています。この戦略が達成されれば、持続的な農業基盤の構築が実現するでしょう。その結果、国民の豊かな食生活、地域雇用・所得の増大につながり、将来にわたり安心して暮らせる地球環境の継承が期待できます。

農村の生物多様性・地域資源の可視化が重要ですが、有機栽培と慣行栽培では、どちらの方が生物多様性が高いのでしょうか?農研機構が、2013年から2年間かけて行った調査の結果、有機栽培の方が生物多様性が高いということが分かっています。これは、除草剤や殺虫剤を使わない有機栽培の特性が寄与しています。つまり、適切に有機栽培を行えば、農業生産を行うことで、生物多様性を高めることができるのです。

また、生物多様性保全が企業のビジネスチャンスにつながる事例もあります。2015年から農研機構がキリンHDと行っている共同研究では、国内の耕作放棄地を日本ワインのブドウ畑に転換し生態系を豊かにするプロジェクトを行っています。生物多様性で日本ワインの高付加価値を狙いながら、社会貢献により企業イメージ向上も達成できるモデルとなっています。

さらに、地域資源を活用して農村を活性化させた事例もあります。静岡の茶草場農法は、世界農業遺産というFA0による農業振興制度に選ばれています。茶草場とは静岡の茶園の周りに多くあるススキを中心とした草原のことをいいます。この茶草農法を行うことで、お茶の味が良くなり、土壌の物理環境の改善や、雑草防除に効果があります。この世界農業遺に選ばれたことを機に、さまざまなお茶の新ブランドなど、新たな地域ブランドを発足させたり、グリーンツーリズムを発展させたり、何よりも茶農家さんや地域のやる気が増進したりと、地域の活性化につながりました。


3.     感想

 今回の講義を受けて、工夫次第で、生物多様性を保全しながら、地域の価値や企業価値を高めることができるとを知れたことが、新たな発見でした。また、これまでは環境問題と聞くと気候変動の方に意識が向きがちだったのですが、気候変動と同じくらい生物多様性の保全も緊急かつ重要であることを再認識できました。

講義でもあった通り、農林水産省の「みどりの食糧戦略」では、2050年までに、国として農林水産業のCO2ゼロエミッション化の実現などを目標にしています。そのためには、農家さんの取り組みだけではなく、様々な分野の方々の強みを持ち寄る必要があると感じました。

 例えば、農研機構さんのような研究機関や、茶草を地域ブランドにした静岡市のような行政、農作業を自動化・省力化する機械を作るメーカーや、生物多様性を豊かにしながら、企業価値を高めようとするCSV型の企業などです。

 今後の「DO!NUTS TOKYO事業」のアンバサダーとしての活動で、今回学んだ日本の生物多様性の現状と有機農業が持つ可能性を多くの人に伝えていこうと思います。また、農林水産業のCO2ゼロエミッションを達成に向けて、様々な分野の方々を巻き込んでいけるように、自分ができることは何かを日々考えながら、「DO!NUTS TOKYO」の仲間と発信を続けていきます。


4.     同世代に伝えたい点

  • 日本の生物多様性の現状について調べてみよう。
  • 企業や地域の、生物多様性を活かした商品を選んでみよう。
  • 生産者さんの顔の見える「ファーマーズマーケット」や「直売所」へ行ってみよう。
  • 都会でも家庭菜園や、アーバンファーミングなど、カジュアルに農に触れてみよう。
  • 「グリーンツーリズム」や、「ファームステイ」などを活用して、実際に農村へ足を運んでみよう。


【講師】
楠本良延
国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 西日本農業研究センター 上級研究員

植生生態学、景観生態学が専門。農村・農業に関わる人間活動により育まれる生物多様性の成立・維持の仕組みを解明する研究を行っている。農業生態系における生物多様性、生態系サービス、外来種問題などがメインの研究テーマである。最近の研究では「静岡の茶草場農業」における茶生産と生物多様性の関係を明らかにし、世界農業遺産の認定に貢献した。農業生産と生物多様性の両立が研究としてのライフワークである。

【レポート執筆】
井上寛人/第1期若者アンバサダー

明治⼤学情報コミュニケーション学部在学中。小学生のことから環境問題に興味を持ち、2018年「Fridays for Future Japan」を仲間と立ち上げ、現在は、博報堂の創造性の研究機関「UNIVERSITY of CREATIVITY」発のプロジェクト「Tokyo Urban Farming」のコアメンバーとして活動中。


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