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2024年4月23日 17:05

学びシリーズ第25回「ファッションを再デザインする」浦田庸子氏

2023年10月6日に、「これからもおしゃれを楽しむために ファッションを再デザインする」をテーマに第25回オンラインレクチャーを開催しました。
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「学びシリーズ」は、DO!NUTS TOKYO公式アンバサダーの皆さんに向けて行われるレクチャーであり、若者アンバサダーとして活動を行っていただく上で参考になると思われる知識の習得や、ご自身の考えをより深めていただくことを目的としています。

第25回目は、2023年10月6日(金)に、エル・ジャポンの浦田庸子氏を講師にお迎えし、「これからもおしゃれを楽しむために ファッションを再デザインする」をテーマに開催しました。

■レクチャーレポート

1.ポイント

・世界では1秒にトラック1台分の服が捨てられている

・服のリサイクルを困難にする要因は「混紡繊維」

・日本の衣料「自給率」は食料自給率よりも低い?!

・法規制・評価指標の整備がグローバルに進んでいる

・新素材とエシカル消費が鍵

2.サマリー

ファッション業界が環境に与える負荷は、CO2排出、水の大量消費、海洋へのマイクロプラスチック流出、など多岐にわたり、低賃金や児童労働といった人権問題も発生しています。

しかし、生産にこれだけのコストがかかっているのにも関わらず、服は1秒間にトラック1台分のペースで捨てられているのです。回収ボックスで集めたとしても服から服へのリサイクルはわずか1%で、世界では全体のおよそ7割が廃棄されているといいます。日本も例外ではなく、1年に新しく供給される量の9割が手放され、そのうち6割以上が捨てられています。

なぜリサイクルが進まないのでしょうか?要因は、私達が普段着るような衣服が「混紡繊維」でつくられていることにあります。2種類以上の繊維が混紡されていると、リサイクルをする前にそれぞれの繊維を分けなければいけません。この作業が、大規模化には向かないのです。

世界中で捨てられた衣服は、アフリカやチリの砂漠に行き着き、川や海に流れ込んだり、有毒ガスを発したりと、現地の人々の生活に深刻な影響を与えています。

この状況を改善するために必要なことは、

①生産段階で蛇口を閉めること(成長型から収益型へのシフト)

②リサイクル技術を確立し、循環のループをつくること

の2点です。

蛇口を閉めざるを得ない要因として、「生産地を襲う気候変動リスク」が挙げられます。

バングラデシュ、ベトナム、パキスタン、カンボジアの4つの主要生産地で、気候変動対策を何もしなかった場合、2030年までに650億ドル(22%)、2050年までに1兆4000億ドルの輸出減となる可能性があるのです。衣類の97-8%を輸入に頼っている日本は、大打撃を受けるでしょう。

それでは現状、どのような対策が取られているのでしょうか。フランスを例に、法規制についてみていきます。2007年には拡大生産者責任法(EPR法)により、生産者が製品のライフサイクル全般に責任を負うことが義務付けられました。街に衣料品回収ボックスが設置され、年々回収率は増加しているそうです。さらに2020年、循環経済法(AGEC法)により売れ残りの廃棄が禁止され、リサイクル・寄付が義務化されました。リサイクル素材や有害物質の有無、生分解性などの表示も義務化されている点もポイントです。そして2023年には、グリーンウォッシュ規制により、「環境に優しい」といったあいまいな用語の規制も進むようになりました。

もうひとつ特筆すべきは「ファッション協定」です。企業の垣根を超えて協力し合いながら、参加企業が2050年までのネットゼロ・脱プラスチック・生物多様性保全を進めています。現在ファッション業界の1/3となる250社が加盟し、共同で再エネを購入・送電するCVPPAイニシアチブや、生物多様性の算定評価基準の整備などを行い、コンソーシアムの力を発揮しています。

グローバルの評価指標の整備については、アメリカの業界団体SACが「ヒグ・インデックス」、英国ではNGOのファッションレボリューションが「ファッション・トランスペアランシー・インデックス」を公表しています。前者は牛革、羊革、といった素材別のLCA評価指標があり、近年は工場・施設の評価需要が高まっている点が特徴です。後者は、労働環境にも重きをおいた評価指標となっています。両者に共通している課題として、トレーサビリティの確保が挙げられます。ファッション業界の複雑なサプライチェーンの中で、ブロックチェーンを活用しながら信頼性のあるデータを集めることが急がれています。

ブランドの挑戦としては、バイオマスを餌に微生物を発酵させてできる人工タンパク素材の開発や、Mushroom Leatherの利用、環境負荷の低い顔料を用いたインクジェットプリントなどがあげられます。また、オーガニックコットンの推進や、古着と農業残渣による合成ビスコースへの移行(ビスコースの原料となる木の伐採を減らす試み)によって、生物多様性に配慮した取り組みが行われています。

さいごに消費者からの変革として、制服のリサイクルや、評価機関が出している情報を基に、衣料品を購入するブランドを選ぶことができます。日本では、株式会社UPDATERがファッションブランドのエシカル度レーティングを公開するサイト、「Shift C(シフトシー)powered by Good On You」を公開しています。

プレイヤーが多い分、解決策はひとつに絞れず、多方面からのアプローチが必要なことが、ファッション業界の難しさでもあり、面白さでもあります。これからもファッションを自由に楽しめる環境を作りながら、再デザインを行う必要があります。

3.感想

ファッション業界が環境に与える負荷を削減していくため、行政や企業により様々な取り組みが進められていることを学ぶことができました。この流れにのって、私達消費者自身も、大量消費・大量廃棄のライフスタイルからのシフトを進めていく必要があります。まず必要なのは、今身につけている衣服は、「どこで誰がどのように作って、捨てたあとはどこに行くのか」、その一連のストーリーを想像することでしょう。私はアクションとして、エシカル度の可視化するサービス、「Shift C」を見てみることから始めようと思います。

4. 同世代に伝えたいこと

・衣類の生産段階における環境負荷は非常に大きいにも関わらず、世界では全体のおよそ7割が廃棄されているのが現状です

・大量消費・大量廃棄の負のサイクルを抜け出すことは喫緊の課題です

・「何をもってエシカル消費なのか?」知ることからはじめませんか?

【講師】
浦田庸子
 ハースト婦人画報社 エル・ジャポン/編集

2007年より「エル」にてカルチャー、ライフスタイルの記事を担当。2018年頃よりファッションのサステナビリティに関する取材を定期的に行う。現在はサステナビリティ、ジェンダーをテーマにする「ELLE ACTIVE! 」セクションを担当し、ファッション、メンタルヘルス、食、アートなどさまざまな切り口で、人々の共感や行動変容にアプローチする企画を発信。

【レポート執筆】
寒河江茜里/第3期若者アンバサダー

山形県出身。東京大学教養学部3年。環境問題と科学技術社会論について学んでいる。