若者アンバサダープログラムの学びシリーズ第22回目のレポートです。
「学びシリーズ」は、DO!NUTS TOKYO公式アンバサダーの皆さんに向けて行われるレクチャーであり、若者アンバサダーとして活動を行っていただく上で参考になると思われる知識の習得や、ご自身の考えをより深めていただくことを目的としています。
第22回目は、2023年7月28日(金)に、The Sustainability CollaborativeのSenior Advisorである高見幸子氏を講師にお迎えし、「スウェーデンに学ぶ持続可能な社会へのチャレンジ」をテーマに開催しました。
レクチャー後は振り返りとして、グループディスカッションを行い、活発な意見交換が行われました。
■レクチャーレポート
1.ポイント
- 「ナチュラル・ステップ」とは、1989年に発足したスウェーデンの環境保護団体である。
- 持続可能な社会とは、自然循環の中で活動ができる社会のことである。
- スウェーデンは、世界のSDGsの取り組みランキング 1位(2020年)※日本17位
- スウェーデンでは国会議員女性比率43.6%、男性育休取得の法律義務化など、男女平等が定着している。
- スウェーデン人は環境に対する当事者意識が高い。
- 「気候変動のスピードをスローダウンするために自分が何か行動できると信じている(78%)」
- 「温暖化防止対策をしている企業の商品とサービスを高くても買う(80%)」
- スウェーデンは国家ビジョンとして「世界で最初に化石燃料ゼロの福祉国家になる!」と掲げて、既に使用電力の62.6%は再生可能なエネルギーである。
- スウェーデンでは、循環型社会の実現に向けた取り組みを市民参加型で実践している。
- 「フライトシェイム(飛ぶのは恥)」「肉食を減らす」「気候変動を危機として扱わないスウェーデン政府を提訴」など環境意識が高い若者を中心にアクションを起こしている。
- 成功のカギは、バックキャスティング。
2.サマリー
持続可能な社会の実現に向けた取り組みが世界各国で叫ばれる中、世界のSDGsの取り組みランキングでは1位を獲得し、国民一人ひとりの環境に対する意識が非常に高く、「環境先進国」と呼ばれる国があります。そう、スウェーデンです。
スウェーデンは、人口1000万人、国土の70%が森林で覆われており、9万個の湖が存在する北欧の国です。オイルショックで不況に陥った1970年代、海外からの石油・石炭に頼らず、国内の資源でエネルギーを供給できる方法を探しました。1991年には、炭素税を導入し、その結果、地域暖房が進み、暖房の燃料も石油から木質バイオマスなどの再生可能なエネルギーに切り替わっていきました。また、2021年時点で電力源の構成は、「水力発電 48%」「原発 27%」「風力 18%」「その他」で再生可能なエネルギー率は76%、
暖房に占める再生可能エネルギー率は69%、交通輸送分野は30%で、エネルギー使用全体で再生可能エネルギー比率は63%になりました。
スウェーデンは2020年に50%を目指していましたが、もうすでに達成しています。
スウェーデン政府は、地球温暖化対策の長期目標として、「2045年までに温暖化ガス排出量を実質ゼロに」「2030年までに化石燃料に依存しない交通を」を掲げ、バックキャスティングで市民、地域、企業を巻き込んだ様々な取り組みを行っています。例えば、首都ストックホルムでは、市バスの100%再生可能エネルギー稼働を実現しました。
市民の環境に対する当事者意識は非常に高く、スウェーデン環境保護庁の調査によると、「温暖化防止対策をしている企業の商品とサービスを高くても買う」に対して「Yes」と回答した市民は80%に上りました。特に、環境意識の高い若者を中心に、「牛は、反芻してメタンを出し地球温暖化に大きく加担していることから、肉食は健康にも環境にも悪い」といった意識が高まり、15~24歳の15%がベジタリアンかヴィーガンという調査結果が出ています。
また、民間企業もサステナブルな取り組みを積極的に実践しており、あるファストフードレストランでは、ベジタリアンバーガー等の環境によいメニューの比率が40%を超えています。
最後に、スウェーデンが「環境先進国」として成功している要因の一つとして、「バックキャスティング」が挙げられます。サステナブルな社会への移行には長い年月とさまざまなステークホルダーとの協創を要するため、熱心な政治的リーダーシップの元、めざす社会像から逆算して、一枚岩となって取り組む必要があります。
サステナブルな社会の実現に向けて、日本はスウェーデンから学べることがたくさんあるでしょう。
3.感想
スウェーデンでは、市民の環境リテラシー、当事者意識が非常に高いことを知り、感銘を受けたと同時に「なぜ市民全体に環境意識が根付いているのだろう」と疑問に思いました。講義後、若者アンバサダーとの議論の中で一つの仮説が浮かび上がりました。それは「幼少期の教育」です。スウェーデンでは、環境教育を幼少期の頃から熱心に行っています。その内容の一例として、土の中にペットボトルとアルミ缶、バナナの皮を埋めて1か月後に取り出し、その違いを観察することで微生物による「分解」(資源循環)を体感してもらうというものがあり、一人ひとりが環境に対して主体的に考えるきっかけを与える教育を行っています。日本では、どんな環境教育が行われているのか調べてみようと思います。その上で「教育」を起点としたサステナブルな社会への移行を一つのアクションとして実践していきたいです。
また、スウェーデンから学ぶべきことがある一方で、日本とは地理的・文化的背景など様々な違いがあるため、事例から学びを得るときは前提条件をしっかりと理解する必要があると思いました。例を挙げると、スウェーデンではで水力発電が電力構成の約半数を占めますが、これは地理的条件が関係しており、日本にそのまま適用することが最適解とは言えないのです。
4.同世代に伝えたい点
- 政治に興味を持ち、政治に参加しよう。(誰も、変化を起こすのに小さすぎることはない。)
- 日々の消費行動において、少しずつサステナブルなライフスタイルを取り入れていこう。
- ビジョンを掲げ、バックキャスティングで戦略的に物事を判断しよう。
- 北欧の取り組みについて調べてみよう。その上で、北欧と日本の地理的・文化的背景の違いを意識しながら、日本の未来について周りと議論してみよう。

【講師】
高見 幸子
The Sustainability Collaborative/Senior Adviso
1974年よりスウェーデン在住。
15年間、ストックホルムの基礎学校と高校で日本語教師を務める。1984年より野外生活推進協会の「森のムッレ教室」5~6才児対象の自然教育リーダーとして活動。1992年に「森のムッレ教室」を日本に紹介。
1995年より、スウェーデンへの環境視察のコーデイネートや執筆活動等を通じ、スウェーデンの環境保護などを日本に紹介している。
1999年より、企業、行政向けの環境教育を実施するスウェーデン発の国際NGOナチュラル・ステップの日本事務所設立に関わり、2000年より2011年まで、国際NGOナチュラル・ステップ・ジャパンの代表。2021年より、ナチュラル・ステップ・スウェーデンとして活動をしているネットワーク団体The Sustainability CollaborativeのSenior Advisorとして、日本の企業・行政向けにワークショップをしている。
また、スウェーデンの幼児教育・環境視察のコーデイネートおよび執筆活動をしている。その他、ボランテイ活動として、森のムッレ財団の理事、日本野外生活推進協会の事務局長を務め、森のムッレ教室の普及活動をしている。
著書・共著書「日本再生のルール・ブック」(海象社、2003年)「北欧スタイル快適エコ生活のすすめ」(共著・オーセス出版、2000年)「エコゴコロ」(共著・共同通信社、2006年)
訳書「自然のなかに出かけよう」ステイーナ・ヨーハンソン著(日本野外生活推進協会。1997年)「ナチュラル・チャレンジ」カール・ヘンリク・ロベール著(新評論・1998年)「スウェーデンは、放射能汚染からどう社会を守っているか」(共訳・合同出版、2012年)共訳『スウェーデンにおける野外保育のすべて―「森のムッレ教室」を取り入れた保育実践』(2019年、新評論)

【レポート執筆】
井山 裕太郎/第3期若者アンバサダー
総合電機メーカーにてバックキャスティング手法を活用した中長期視点で、経済・社会・環境価値を両立する新規事業創生に取り組んでいる。
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